基準 2
 
 ☆全てはJIS基準

   基本的に機械設計を行う場合、JISが基準となります。
   JIS無くして日本の機械設計は無いと言っても過言では
   ありません。
   大手企業(メーカー)や特殊工場などでは自社基準を設定
   している場合もありますが、それは何処でも通用する
   図面ではありませんので無視します。
   JISに則る限り、日本のどの製作工場に出しても同じもの
   が理論的には出来て来ます。
   「理論的に」と謳ったのは、各工場の技術力の違いで
   出来・不出来があり得るからです。

 ☆機械設計製図について

  図面とは、単なる加工指示書・組立指示書・施工指示書
  なのです。
  ここに設計した本人がいなければ誰も分らないものは
  漫画であり絵でしかありません。
  希望的観測が現実として可能なのかどうか、これを実現
  しようと試みる時、機械のセンスが問われます。
  力学的に物理的に可能であれば実現できますが、夢は
  夢でしかありません。10mmの穴に12mmの棒を入れる
  事は現在不可能なのです。
  万人が見て、誰もが理解できるもの、更に繰り返し製造
  製作が可能なものでなくてはなりません。
  
  近年CADによる製図が一般的となり、デジタル画像や
  デジタルプロットによって、印刷物のごとき図面ばかり
  になりました。
  手書き図面より正しく思えてしまう時代もありましたが
  CADは単なる図面用ツールであり、中身を書き込む
  人間により、よくも悪くも書かれます。

  堂々と、いかにもと言う図面であっても、基準が飛んで
  いたり、取り方を間違っていたりでは、まともな機械は
  出来て来ません。
  形だけ機械・・ではお話になりません。
  また、公差につぐ公差の雨アラレで、累積公差から
  作る度に条件の違う部品が出来ても使えません。

  設計には「肝」があります。確実に押さえなくては
  ならない部分です。
  無用な公差を作らない設計の考え方や逃げ方など
  は、そんなに難しい事ではありません。
  更に、人に優しい設計とはなにか・・今後育つ設計屋
  さんに与えられたテーマは数多いのです。
  
  これは私の信念でもありますが、機械図面は組立図
  と部品図で終わりのように思われていますが、
  機械設計は「検討図・計画図」の段階でその7割は
  終了しているのです。
  組立図や部品図は最後の仕上げに他なりません。
  しかし、この時検討・計画の意図が飲み込めなければ
  仕上げ段階で誤る事になります。
 


 設計製図における基準線・基準面 
  
 ☆トポロジー(位相幾何学)

     下の絵を見て下さい。A・B・C・Dがこのような位置関係にあるとします。
  ここでは位置関係以外の情報は何もありません。
 
   
   
   実際のA・B・C・Dの距離が下図のようであっても、上の図は位置関係に
   間違いは無いのです。
 
    
 
  これと同じ関係の絵を皆さんはようく使われます。
  案内状に書かれた地図などは、殆どがこのトポロジーを用いています。
  上の絵にAからBまで2km、DからBまで200mなどと言う情報が
  書かれていますと、下の情景が思い浮かびますが、何の情報も
  無ければAから出発した人はどれだけ歩けばBにつくのか分らない
  のです。
  ひとつだけ確かなのは・・関係は合っているので、いつかは着くと
  言う事ですが・・・・。300kmでも3000kmでも関係は合っている
  のだとすると背筋に寒いものを感じます:笑。

  機械図面では、このようなトポロジー的関係は存在しません。
  破断線によって遠くを近づける事はあっても、関係は実縮尺です。

  格言:トポロジーで図面は書けない(書かない)。

  ☆ラスターとベクター
   
   機械設計屋としてホームページを開設して最も困ったのは図面を
   画面で公開するのが非常に困難である事でした。
   私たちが使っているCADの画像を掲載するのは不可能だと
   思い知ったからです。

   結局、汎用フォーマットしたCADデータを文字とリンクして
   CADを使っている方にアップデイトして頂く程度しか
   できないのでした。

   なぜなら、CADのデータはベクターデータで、例えば円を描いた
   場合、円は1本の連続ラインであるのですが、ホームページ等
   ではラスターデータしか表現できませんから単なるドットの連なり
   の「絵」でしかありません。
   ベクターでは線1本でも始まりと終わりの座標があり決まった長さ
   を持っています。円も同様に単体で大きさを持っています。
   ラスターでは見掛けの絵は描けても、我々が要求する所の
   図面は書く事が出来ないのです。

   複雑な図面どころか、簡単な図面データすら表現できません。
   もしも無理矢理掲載するとすればadobeなどのソフトを起動
   させるか、写真データなどで公開する程度です。

   格言:ラスターで縮尺を持った図面は描けない。
   

 ☆設計での基準

  一般にCADでは原点に対して下図のような関係にあります。
  原点を任意位置に設定した場合描かれるポイントはこの座標の関係
  で表記されます。
  角度は反時計回りがプラスで、時計回りはマイナス移動となります。

  

  図面として考えた場合、例えばX軸をベースプレートに取り、Y軸を
  機械の中心位置で取る、と言う基準から計画はスタートします。

  もし、基準を簡単に変化してしまう部分で取った場合、
  又は寸法が曖昧な面で取った場合、実際の組立で混乱する
  事になります。
  ですから、普通は最も不動の部分や、最も基本となる(例えば中心線)
  部分を基準として計画を進めます。
  各部品間の関係も、この基準に出発した先に存在するものです。

  三次元CADもZ軸が増えますが基本的に関係は同様です。

 ☆パーツ内の基準
   
  一般に、パーツ寸法を表示する場合、仕上げ面を基準にして寸法を
  追います。
  一度追った寸法位置から折り返して寸法を入れるなどは殆どの場合
  避けるべきです。
  
  また、その部品の持っている機能や性格から、穴が基準であったり
  する場合なども考えられますし、他のパーツと接する面を基準に
  取るなど、ケース・バイ・ケースでもあります。

  更に、加工方法を考え、最も精密に製作できるような寸法を追う
  ことも重要です。但し、加工精度が甘いパーツは通常の記入で
  十分と考えられます。

  

  製作寸法に公差が含まれる場合は基準面はその公差に見合う
  表面加工を施す必要があります。それは穴間公差等と変わりません。
  よって、全面加工が大変な場合は指定した一部のみ高精度加工を
  指示するなどの配慮が必要です。

  一部分のみ高精度加工する手法は鋳物の機械加工時の基準面
  などにも見られます。

 ☆組立時の基準

  通常、機械は基本となるフレームやベースを持っています。
  無論それらの重要と考えられる面やラインを基準として様々なユニット
  及びパーツが組みつけられます。
  そのユニット自体もユニットの基準面や線に沿って組み立てられて
  おり、それらを合体したとき、計画通りの精度を保つ必要があります。
  
  ひとつひとつの部品が、幾ら精密につくられようと、パーツの数が増せば
  公差等の累積誤差や組立累積誤差により、時には必要な精度が得られ
  ない場合が考えられます。
  機械を設計する場合、全てを極端に高精度化する事も間違いでは
  ないのですが、累積を逃がす為の調整代を作れば案外容易に
  最終的な必要精度を得られるものです。

  機械には可動部分が存在し、それらが仕事を請け負うのが普通です。

  例えば平行に走る2本のロッド上を、2個のリニアブッシュを内臓した
  スライダーが滑るユニットを考えてみましょう。

  二本のレールであるロッドの離れ間距離は高精度に平行でなくては
  いけません。
  その為にロッドを支持するプレート(又はブロック)を同時加工して
  穴間距離を同精度に仕上げるなどの工夫が必要となります。
  しかし、形状が違う支持プレート同士などのように同時加工が難しい
  場合はH7/h7などの公差に頼って加工するしかありません。
  穴間公差のみならず、組立誤差の影響でスライダーが渋く容易に
  動かない場合、処置が難しくなります。

  そこで、片側の支持プレートの穴間距離及びロッド穴を規定のH7で
  加工し、反対側の支持プレートには精度が関与しない通称バカ穴
  を加工します。
  このままでは平行精度がだせませんので、バカ穴側には
  一本につき1個のロッドホルダーをロッドに差込み、支持プレートに
   ネジ止めするようにします。
  スライダーが滑らかに滑る位置でロッドホルダーを固定すれば
  必然的にロッドの平行度が得られます。

  ロッドホルダーと言う別部品が発生しますが、組立時に調整用
  追加工などを避ける事ができます。
  ロッド間距離の誤差と、スライダーのリニアブッシュ間の寸法
  誤差との相性や、スライダーに取り付く様々なユニットとの関係
  など、幾つもの要因が重なると、逃げや調整代が無い機械は
  組立調整で泣きを見る事になります。

 ☆グランドライン・フロアライン・パスライン 
  
  機械全てが精密機械と言う訳ではありません。
  精度と言うには当てはまらないのですが、設計の基準として
   ・グランドライン(地表を示す基本面) G.L.
   ・フロアライン (建築床面)      F.L.
   ・パスライン  (作業の基本面)   PASS.L.
  などがあります。
  これらはプラントや製造機械などで使われる基本ラインです。
  機械の精度と言うより、組立時・据え付け時に必要な基準である
  場合が殆どです。

  しかしながら、例えば1F.Lと3F.L.の機械同士をなんらかで接続
  する場合には、機械精度ではないにしてもフロア間の寸法に
  左右される事になります。
  それを予想した上で、ベースに上下の調整代を設ける、または
  接続部分にフレキシブル機構を入れるなどの措置が無ければ
  組立自体困難になります。

  機械単体ではなく、システム全体を把握した上で機械を設計
  しなくてはなりません。
  ユニット毎精度良く出来ていても、それらが組み合わさりひとつの
  システムとして可動する場合、ユニット単体寿命のみならず
  システムの全体の磨耗や負担を念頭に入れて設計に反映します。


  ☆理論と空論(休憩) 
  「それは私が言ったのだから、私のアイデアだ!」
  とある営業マンが言いました。
  色々雑談していた中に、これは行けるかも・・と私がその話を
  拾って計画し改造をしたのでした。
  きっかけは、改造をどうするか、どのような手段があるかを話して
  いる中で、計画条件を聞いてみたら、簡単な条件だったので
  それじゃあ挟むだけで行けるのね?と言う会話から計画した
  もので、営業マンは殆ど技術的な事は分からない人でした。

  良く勘違いされるのですが、絵に描いた餅は食べられないのです。
  米を知らずして「餅」を作れるはずも無い。
  美味い「餅」はもち米を炊いて、杵でついて、初めて美味しく
  味わえるのです。これは当たり前の事です。
  お金を出して餅を買った客が「俺が作った餅だ。」と言うのは
  お門違いであろうと、私は思うのですが・・・。
  餅の権利は、お金を出したあなたのものです。
  しかし、作らせたかも知れないが、あなたが作ったのではない!

  私はこの人に最後に言いました。
  「話だけで機械が出来るなら、私たちの商売も工場も必要
   ないんですよ。
   少なくともあなたは、設計屋でも技術屋でもない。
   私はあなたを技術屋と認めないし、技術の欠片も感じたこと
   はありませんよ。」

  理論だけでは意味を成しません。実証があって初めてその
  理論が裏付けされ、生きる事になります。
  絵に描いた餅は空論でしかありません。紙に丸を書いて
  餅の味を説いても始まりません。
  設計屋は絵を書きます。そうして工場が実証してくれます。
  工場の実証が無ければ、設計屋は「空論」だらけなのです。

  デッド・コピーと言う、好ましくない技術があります。
  デッド・コピーには理論も計画も必要ありません。
  誰かが膨大な時間をかけて計画設計した完成品を、ばらばら
  にして、ほぼそのまま複製するだけです。
  これを「開発」と呼んでいる業者が存在します。
  更に、機械を買って工場に丸投げし、「これの倍の機能を
  持ったのをつくれや」と「開発」を繰り返しています。
  「自分達はメーカーである」と言いながら、内部の人間に
  技術屋は一人もいません。

  かつて設計開発で一世を風靡した会社がありました。
  重機のノウハウが無いため、私がお世話になっていた
  メーカーに依頼し、基本の形態を作りました。
  ある日、TVに大々的に「新開発」の名の下にコマーシャル
  が流れました。
  そこに映っていたのはメーカーの開発設計したそのもの
  であったのです。
  無論、メーカーはクレームを入れました。
  そうしてしばし・・・殆ど違いが分からないが、間違いなく
  彼等が製作した「製品」が出現したのです。
  
  どう考えても「デッド・コピー」そのものです。
  その「新製品」は札幌市にも導入され何度も実験を
  行いましたが・・・最終的に「使用」には耐えられなかった
  ようで、随分前から話題にも上らなくなりました。
  その会社もつぶれましたし。

  デッド・コピーは「開発」時間をスポイルして製品を生み
  ますが、技術力がそのノウハウを吸収できなければ
  そこまでです。
  そこから一歩踏み出して、新たな機能やノウハウを
  注ぎこみ、全く新しい製品を作ってしまうのは「猿まね」
  の上手な日本人の特徴と言われて来ました。
  
  しかし、猿まねにしろ、その機能が優れていれば、やがて
  本物になる事もあるので、全てが不可とも言えません。
  二番煎じの方が優れていたりするのも、日本の製品の
  特徴だったりもしますが、技術力の裏付けがあって
  初めて可能な事も確かです。
  ただ、デッド・コピーそのものを「開発」などと言うレベル
  でメーカーを名乗る輩は消えて欲しいと思います。
  



 ☆基準ラインの傾きや曲がりについて
  
  基準ラインがベース面にしろ中心線にしろ、現実には理論
  ラインのようには行きません。
  無視できる位、精度がよければ構わないのですが、加工で
  ある以上、理論のようには行きません。

  汎用機械プラントのように、殆ど黒皮のままの部材を基準に
  する場合もありますし、精密機械のように定盤のごとき精度
  を要求される場合もあります。
  機械が大型になるに従いフレームが溶接構造になるなどして、
  一般公差内ではあっても綺麗な平面が出ていないなどの
  不都合が生まれ、その為にはライナー調整しながら厚めの
  ベースプレートで平面を確保するなどの計画時からの設計上
  の対処などが求められます。

  長い軸などは中間にフレキシブルジョイントなどを設定して分割し、
  必要部のみ精度を保つ工夫がかんがえられますし、それぞれ
  のユニットが設計上の直線精度を維持できるような調整機構も
  必要でしょう。
  また、中間に数箇所の軸受けを配置する場合には軸受け周辺部の
  み嵌合い公差で加工し、残りは細く削り組立を容易にするなど
  工夫を多くした場合、加工素材には多数のキー溝加工やカット面
  加工など様々なストレスから曲がりが発生したり芯ズレを生じる
  などの可能性は高まって行きます。

  機械の性格は、そのまま設計精度に跳ね返って来ますし、製作
  工場では、与えられた精度で製作及び組立調整が必要となります。
  しかしながら、加工後に精度の再確認が困難な場合も多々あり、
  組み立ててみて初めて明らかになる誤差が見つかる事も稀では
  ありません。
  組立が加工現場から離れている場合などは、その対処に限界が
  来る事も考えられます。
  
  現場は行程・日程に左右され、仮組も出来ない場合も想定できる
  訳で、計画設計はそれらも考慮してなされなければいけません。
  全てが熟練者ばかりあれば幸いですが、そうも行かない事も実際
  には起って来ます。
  熟練者でなくとも容易に調整可能である事も将来のメンテナンスを
  考えると必要となり、また試運転現場でも親切な設計となる事は
  疑いありません。

  構造的な製作精度・組立精度はアイデアによりかなりな部分で
  対処も考えられますが、単純に穴明け精度や表面精度は
  アイデアでどうにかなると言うものではありません。
  穴の位置精度や真直精度は基本が狂っていた場合決定的な
  欠陥になる可能性が大きいものです。
  その為に公差や表面精度や幾何公差と言った精度の標準化が
  なされており、ミクロな部分での基準と言えます。

  それぞれの詳細については次回の講義に譲るとしてそれらの係
  わり合いをここでは考えてみましょう。

  公差だけ、表面精度だけ、幾何公差だけを独立して図面に反映
  しようとしても無理があります。
  なぜなら、例えばH7/h7で穴に軸を取り付ける事を考えてみます。
  公差はIT7(7級)なのでφ50の軸を考えれば30μm以内となります。
  と言う事は、表面精度が通常2発と言われる最大高さで25Sだと、
  反対側も合わせて最悪50μmの場合が想定できるから適切では
  ありません。
  よって、6.3Sの3発仕上げが適切と言えるでしょう。
  また、真円度や平行度についても、加工長さが長くなるに従って
  重要度を増して来ますから、これらは三位一体と考えて指示する
  必要があります。
  
  しかしながら、精度指示が数多い部品は、当然加工側でも構える
  必要があり(段取りなどが変わる)高価な部品となって行きます。
  通常、機械には予算があり、その中には材料の選択に始まり、
  様々な行程を経た部品が集められ組立ち、最終価格となって
  来るわけで、1個1個のパーツ価格の変動は大きく価格差に跳ね
  返ります。
  ですから、これらの精度関連の指示は設計上最小限に留めるべき
  で、その最小限度を何処に持って来るかが重要な決断になるのです。


  余談:
   機密性を考えた場合には例えばオイルシールが当る軸部分を
   研磨すると、シール寿命は逆に短くなる場合がある。
   シールは通常固定され、軸の上を接触して滑ることになるが、
   程よい磨耗で機密が保てば良いが、経年変化でいつかは漏れ
   が始まる。
   そこで、エメリーペーパー仕上げで回転方向にμmの平行な筋を
   つけると、時間と共に軸の溝にシールのゴムがギザギザ状態で
   馴染み、シール寿命は伸びるものである。
   一概に精密に仕上げる事が全てではない一例である。

  余談:
   かつて薄い金属プレートに薄いセラミックシートを貼り付ける
   セラミックブザープレス機の製作を依頼された。
   打ち合わせで精密を要求されたため、軸間距離なども全て2/100
   以下となる公差でがんじがらめにした図面で製作した。
   出来上がったプレスは「見事!」と言うほど調整代も許さぬマシーン
   になっていた。
   ところが、実際にセラミックシートを貼り付けると、製品が動作しない
   のであった。
   プレスは正確に貼り付けているので、当初の計画通りに仕上がって
   いたのではある。
   しかし、手動で結構不正確に仕上げたブザーは動作するのだが、
   そのプレスで精密にプレスすると機能しなくなってしまうのであった。
   最終的にはあちこちに遊びをつくり、ガタガタにすると言う暴挙の
   下に求められるプレス機は完成したのである。



   
    
    TOPに 戻るはず     基準の3へ続く・・多分・・   きっと ねじ