公差 |
但し、解説するのに図や表が膨大な数に上ってしまい、更に
ここで公開するには、かなり大きな絵にしないと飛んでしまう
ものが多く、掲載が困難である。
よって、簡易なもの意外は講義にて資料として配布する事
にして進める。
精度の問題でもあるが、僅かでも隙間が無ければ、穴か軸の
どちらかが変形(膨れたり・縮んだり)でもしなくては理論上
入らないのである。
また、機械の組立に於いて「移動する」と言うのは「隙間がある」
と言う事である。
幾ら精度良くピッタリ出来ていようと隙間ガタガタと同じである。
実際にあった経験であるが、
ある機械で、滑り軸受けを使用したスライドユニットの上に
ローラーを乗せ、固定側のローラーとの隙間を調整して、
間を通過するプレートパーツに刻印よろしく溝をつけていた。
しかし、プレートパーツがローラー間に挟まれる度にローラー
がブルンと動いてしまい、刻印が一定しないと悩んでいた。
工場側の追求ではスライドユニットの上のローラーを支えている
架台が都度曲がって振動を起こしているとして、架台を強化しろ
と言う意見であった。
私が調査して見ると、スライドユニットが固定されていなかったので
その指摘をしたが、スライドユニットは精度が良いから有り得ないと
反論されたのである。プレス力を受け止める精度ですと?
「動く」と言う事は最早精度云々でなく、隙間を持っているのだと
説明しても、なかなか納得して貰えなかったのである。
まして、架台の大きさが200L×200W×400H程度しかないのに
衝撃で数mm動いているなら「破壊」していますよ、と説明しても
なかなか納得して頂けなかったものである。
結局、スライドユニットを完全固定させて問題はクリアになったが、
調整の為にフリーにしておきたいと言うわがままを最後まで
聞きながらの改造であった。
元々のボンクラ設計では、希望の予算で出来るのはそれ位
しか無理だった。
隙間ピッタリでは力の掛かる部分の固定はできない。
隙間嵌め・中間嵌め・締り嵌めをきちんと理解し誤解の無い
ように公差を利用しなくてはいけない。
見た目で「思い込み」を頼ると上のような陳腐な問答を繰り返す
事になりかねない。
問答相手が、ある大手企業の設計責任者であった事もつけ
加えておく。(情けない)
☆許容限界寸法について
製作寸法は幾ら精度を増しても理論ラインに一致しない事は基準
で述べた通りである。
そこには必ず「誤差」が存在するのである。
但し、ここで言う誤差も厳密に言えば理論誤差でもある。
現実には10μmまでの精度を要求すれば3μmはゼロに等しい
のであるが、消えた訳ではない。
下図(fig1)は許容限界寸法の考え方を図示したものである。
大きい方を最大許容寸法、小さい方を最小許容寸法とし、その
差を公差と言う。
図の(a)は、基準線(基準寸法:理論寸法ライン:呼び寸法)に
対して明らかなマイナスであり、(b)は基準線からプラス側であり、
(c)は基準線をはさんでプラマイの範囲の許容域を持つモデルである。
fig1
最大許容寸法から基準寸法を引いたものを上の許容寸法
最小許容寸法から基準寸法を引いたものを下の許容寸法
と言い、無論この差は公差である。
※ここでは理論であるから表面精度や幾何公差は無視している。
現実には全てが絡み合う複雑な形態である。
☆公差等級(IT:ISO Tolerance)
JIS規格では基準寸法を幾つかの段階に区分して、同一等級
であっても、寸法が増すに従って、大きい公差を与えるように
している。
精粗の度合いが同一水準であると考えられる寸法公差群に
段階をつけ、これを公差等級と呼ぶ。
公差等級は、小さいものから 01級、0級、1級、2級・・・・・18級
の20段階に分類される。
これらは、IT01、IT0、IT1、IT2・・・・・IT18と表記される。
01級から4級まではゲージ類に用いられ、5級から10級までが
通常はめあいに使用され、11級以上ははめ合わせない部分の
公差に用いる。
IT公差等級
を超え | 以下 | IT4 | IT5 | IT6 | IT7 | IT8 | IT9 | IT10 | IT11 | |
- | 3 | 3 | 4 | 6 | 10 | 14 | 25 | 40 | 60 | |
3 | 6 | 4 | 5 | 8 | 12 | 18 | 30 | 48 | 75 | |
6 | 10 | 4 | 6 | 9 | 15 | 22 | 36 | 58 | 90 | |
10 | 18 | 5 | 8 | 11 | 18 | 27 | 43 | 70 | 110 | |
18 | 30 | 6 | 9 | 13 | 21 | 33 | 52 | 84 | 130 | |
30 | 50 | 7 | 11 | 16 | 25 | 39 | 62 | 100 | 160 | |
50 | 80 | 8 | 13 | 19 | 30 | 46 | 74 | 120 | 190 | |
80 | 120 | 10 | 15 | 22 | 35 | 54 | 87 | 140 | 220 | |
120 | 180 | 12 | 18 | 25 | 40 | 63 | 100 | 160 | 250 | |
180 | 250 | 14 | 20 | 29 | 46 | 72 | 115 | 185 | 290 | |
250 | 315 | 16 | 23 | 32 | 52 | 81 | 130 | 210 | 320 | |
315 | 400 | 18 | 25 | 36 | 57 | 89 | 140 | 230 | 360 | |
400 | 500 | 20 | 27 | 40 | 63 | 97 | 155 | 250 | 400 |
☆嵌めあい
寸法公差とはめあいの表は、ここではカツアイする。ここに
書き込むには膨大なので、他の参考書に譲る。
穴に軸を入れる等の関係を嵌めあいと言う。
下図(fig2)は穴基準の時の軸に与える公差がどのような
場合に使われるのかを表している。
嵌めあいには
(1)すきまばめ
穴と軸間に完全な隙間が常に存在する。
(2)中間ばめ
小さな締め代を与え、比較的容易に分解が出来る。
(3)しまりばめ
穴の最大許容寸法より、軸の最小許容寸法が大きい。
よって、油圧ジャッキなどで押し込んだり、冷やしばめ
などを行う。簡単には分解できない。
がある。
それぞれ、目的に応じて適せんに選択する。
一般には穴加工より、軸加工が容易なため、穴基準で
用いられる事が多い。
☆普通公差(一般公差)
通常図面を書くに当って、全ての寸法に公差を入れる事は
しない。
下図(fig3)は長さの普通公差で、(fig4)は角度の普通公差
である。
各々精級・中級・粗級・極粗級があり、その級を指定する
事によって特別に指示が無い限り、その公差で製作される。
但し、普通公差には、鋳造品や金属プレスなどに限定した
規格もあり、業種によって使い分けられている。
また、工場などに等級を指定してある場合などは、特に
等級を記入していない図面が多い。
一般に産業機械の場合は何も指示しなければ中級精度
で仕上げてある事が多い。
機械の性格を見極めた上で、発注すべきである。
☆公差指示
公差は精密に加工するためだけに記入する訳ではない。
加工精度として普通公差での仕上げより粗であっても良い
場合も同じように許容差を記入する。
例えば、組立時に容易に勘合が行えるように、穴を大きめに
するなどの場合や、精密公差域が設計の意図に合致しない
場合なども、設計者独自の公差を指定すれば良い。
2.表面精度
かつて、20年ほど前までは▽記号で表面精度を表していた。
当時25Sとか6.3Sとか言う指示が一般的であったが
現在の最大高さである。
工場の現場では特別な指示が無い限り、フィルタによる検査を
随時行っていることはなく、サンプルゲージで対応しているのが
普通であると思われる。
しかしながら、表面粗さ測定器の小型のものも販売され、徐々に
広がりつつあるように見受けられ、今後更に低価格な装置が
販売されれば、そう遠くない将来に、検査室から加工現場へと
普及は加速度的に早まると思われる。
fig5
fig5は20年前のものである。しかしながら、北海道の工場の
一部にはまだ根強く残っている。
チェックする面に直角に切断したときの切り口に現れる輪郭を
断面曲線と言う。
断面曲線から所定のカットオフ値(位相補償形高域フィルタの
利得が50%になる周波数に対応する波長)λcよりも長い波長
の成分をフィルタで除去した曲線を粗さ曲線と言う。
※電気的に増幅した曲線である。
☆表面粗さの定義
表面粗さや表面うねりは表面形状を定める量であるが、これらの
本質的な定義はされていない。
1994年に表面粗さのJIS規格の見直しが行われ、全ての粗さ
パラメータがフィルタ処理後の粗さ曲線に基づいて算出されるように
改善された。
JISの粗さ形状パラメータはfig10に上げられるが、代表的なものは
次の3種である。(各解説はfig10に譲る)
(1)算術平均粗さ Ra
fig7-1
一つの傷が測定値に及ぼす影響が非常にちいさくなり
安定した結果が得られる。
fig7-2
(2)最大高さ Ry
fig8-1
1箇所でも高い山や深い谷があると、大きな値になってしまい
測定値のバラツキが大きくなる。
fig8-2
(3)十点平均粗さ Rz
fig9-1
fig9-2
であるが、この内最も優先されるのは算術平均粗さ:Raである。
よって、特別な指示が無い限り、粗さ記号に付加される数値は
Ra と考えてよい。
↑Ra表記
fig10
☆パラメータの指針
上にあげたパラメータ 算術平均粗さ :Ra
最大高さ :Ry
十点平均粗さ :Rz
凹凸の平均間隔 :Sm
局部山頂の平均間隔 :S
負荷長さ率 :tp
の他に 二乗平均粗さ :RMS
算術平均傾斜 :Δa
二乗平均傾斜 :Δq
振幅分曲線 :ADC
負荷曲線 :BAC
ピークカウント :Pc
平均凹凸高さ :Rc
ハイスポットカウント :HSC
初期磨耗高さ
:Rpk
負荷長さ率 :Mr1
初期磨耗面積 :A1
油溜り深さ :Rvk
負荷長さ率2 :Mr2
油溜り面積 :A2
最大谷深さ :Rv
最大谷深さ :Rvi
平均谷深さ :Rvm
最大山高さ :Rp
最大山高さ :Rpi
平均山高さ :Rpm
などが上げられ、おのおの以下のような関係で使用される。
機密度 | 接触面間の粗さ | バルブ・コック・シリンダ | Ra Rp Sm Rpk |
摩擦力 | クラッチ・ノックピン | Δa Δq Rz Ry Rp | |
摩擦 | 摺動の削れ | 軸・軸受・ピストンリング | Rp tp Rpk Rsk BAC |
焼付き・潤滑性 | 潤滑油を谷に貯める | シリンダブロックボアの
プラトーホーニング面 |
Rv tp Rvk Hp Mr2 BAC |
密着性 | リンギング | ブロックゲージ | 平面度 Ry Rmax |
接着性 | 塗装・メッキ
剥れにくさ |
プリント基板・接着面塗装下地
メッキ下地 |
Rz Δa Δq |
剥がしやすさ | 型と成形品 | 金型 | Rz Ry Δa Δq |
外観・光沢 | メッキ面・虹面仕上げ・シボ・鏡面 | Δq Rq Ra | |
外観・光沢 | 塗装面の輝き | 自動車用冷間圧延鋼板 | Ra Pc |
光学的性能 | 光束の屈折 | 鏡・レンズ・プリズム | Δq Rq Ra |
耐食性・絶縁性 | 毛細管現象 | 耐候部品・電気部品 | Ra Δa Δq Rv Mr2 |
疲れ破壊強さ | 切欠の疲労破壊 | クランクシャフト | Rmax Rv Rvk |
電磁気特性 | 傷・粗さで
表皮効果阻害 |
導波管・磁気コア | Ra Ry Rz |
接触面の熱
電気抵抗 |
実質接触面積の
変化 |
リレー・スイッチ・コネクタ
・ヒートシンク |
tp Ra HSC |
接合面剛性 | たわみ | ボルト締め部 | 平行度 tp Rz Rp Rpk |
寸法測定精度 | 測定誤差 | マイクロメータ・ノギス | 平行度 Ry Rp Rpk |
肌触り | 手触り | ローレット・梨地面 | Ry Δa Δq Pc |
印刷品位 | 紙のキメ | 印刷用紙 | Ra Rv Rvk Pc |
騒音・振動 | 高速回転振動 | 歯車・転がり軸受・ガイド | Ry Rmax |
JISではISO規格に合わせて算術平均Raを推薦している。
図面の上で指示する場合は出来るだけRaに統一するのが良い。