公差
      
   ☆公差・表面精度・データムは切っても切れない関係にある。
   ここでは公差・表面精度・データムの順に進めて行く。

   但し、解説するのに図や表が膨大な数に上ってしまい、更に
   ここで公開するには、かなり大きな絵にしないと飛んでしまう
   ものが多く、掲載が困難である。

   よって、簡易なもの意外は講義にて資料として配布する事
   にして進める。
 
 



 
  1.公差
  
    φ10の穴にφ10の棒が入るか?と言う質問をする事にしている。
   現実には入れる事は可能である(嵌めあい公差参照)が、
   理論的には「入らない」が答えである。

   精度の問題でもあるが、僅かでも隙間が無ければ、穴か軸の
   どちらかが変形(膨れたり・縮んだり)でもしなくては理論上
   入らないのである。

   また、機械の組立に於いて「移動する」と言うのは「隙間がある」
   と言う事である。
   幾ら精度良くピッタリ出来ていようと隙間ガタガタと同じである。

   実際にあった経験であるが、
   ある機械で、滑り軸受けを使用したスライドユニットの上に
   ローラーを乗せ、固定側のローラーとの隙間を調整して、
   間を通過するプレートパーツに刻印よろしく溝をつけていた。
   しかし、プレートパーツがローラー間に挟まれる度にローラー
   がブルンと動いてしまい、刻印が一定しないと悩んでいた。

   工場側の追求ではスライドユニットの上のローラーを支えている
   架台が都度曲がって振動を起こしているとして、架台を強化しろ
   と言う意見であった。

   私が調査して見ると、スライドユニットが固定されていなかったので
   その指摘をしたが、スライドユニットは精度が良いから有り得ないと
   反論されたのである。プレス力を受け止める精度ですと?

   「動く」と言う事は最早精度云々でなく、隙間を持っているのだと
   説明しても、なかなか納得して貰えなかったのである。
   まして、架台の大きさが200L×200W×400H程度しかないのに
   衝撃で数mm動いているなら「破壊」していますよ、と説明しても
   なかなか納得して頂けなかったものである。

   結局、スライドユニットを完全固定させて問題はクリアになったが、
   調整の為にフリーにしておきたいと言うわがままを最後まで
   聞きながらの改造であった。
   元々のボンクラ設計では、希望の予算で出来るのはそれ位
   しか無理だった。

   隙間ピッタリでは力の掛かる部分の固定はできない。
   隙間嵌め・中間嵌め・締り嵌めをきちんと理解し誤解の無い
   ように公差を利用しなくてはいけない。
   見た目で「思い込み」を頼ると上のような陳腐な問答を繰り返す
   事になりかねない。
   問答相手が、ある大手企業の設計責任者であった事もつけ
   加えておく。(情けない)

   ☆許容限界寸法について

  製作寸法は幾ら精度を増しても理論ラインに一致しない事は基準
  で述べた通りである。
  そこには必ず「誤差」が存在するのである。
  但し、ここで言う誤差も厳密に言えば理論誤差でもある。
  現実には10μmまでの精度を要求すれば3μmはゼロに等しい
  のであるが、消えた訳ではない。

  下図(fig1)は許容限界寸法の考え方を図示したものである。
  大きい方を最大許容寸法、小さい方を最小許容寸法とし、その
  差を公差と言う。

  図の(a)は、基準線(基準寸法:理論寸法ライン:呼び寸法)に
  対して明らかなマイナスであり、(b)は基準線からプラス側であり、
  (c)は基準線をはさんでプラマイの範囲の許容域を持つモデルである。
     
   
    fig1

   最大許容寸法から基準寸法を引いたものを上の許容寸法
   最小許容寸法から基準寸法を引いたものを下の許容寸法
   と言い、無論この差は公差である。
   
   ※ここでは理論であるから表面精度や幾何公差は無視している。
    現実には全てが絡み合う複雑な形態である。

  ☆公差等級(IT:ISO Tolerance

   JIS規格では基準寸法を幾つかの段階に区分して、同一等級
   であっても、寸法が増すに従って、大きい公差を与えるように
   している。

   精粗の度合いが同一水準であると考えられる寸法公差群に
   段階をつけ、これを公差等級と呼ぶ。

   公差等級は、小さいものから 01級、0級、1級、2級・・・・・18級
   の20段階に分類される。
   これらは、IT01、IT0、IT1、IT2・・・・・IT18と表記される。
   01級から4級まではゲージ類に用いられ、5級から10級までが
   通常はめあいに使用され、11級以上ははめ合わせない部分の
   公差に用いる。

 IT公差等級
を超え 以下 IT4 IT5 IT6 IT7 IT8 IT9 IT10 IT11
- 3 3 4 6 10 14 25 40 60
3 6 4 5 8 12 18 30 48 75
6 10 4 6 9 15 22 36 58 90
10 18 5 8 11 18 27 43 70 110
18 30 6 9 13 21 33 52 84 130
30 50 7 11 16 25 39 62 100 160
50 80 8 13 19 30 46 74 120 190
80 120 10 15 22 35 54 87 140 220
120 180 12 18 25 40 63 100 160 250
180 250 14 20 29 46 72 115 185 290
250 315 16 23 32 52 81 130 210 320
315 400 18 25 36 57 89 140 230 360
400 500 20 27 40 63 97 155 250 400
       mm                                            μm

   
  ☆嵌めあい

   寸法公差とはめあいの表は、ここではカツアイする。ここに
   書き込むには膨大なので、他の参考書に譲る。
   
   穴に軸を入れる等の関係を嵌めあいと言う。
   下図(fig2)は穴基準の時の軸に与える公差がどのような
   場合に使われるのかを表している。

   fig2

   嵌めあいには
   
   (1)すきまばめ
      穴と軸間に完全な隙間が常に存在する。

   (2)中間ばめ
      小さな締め代を与え、比較的容易に分解が出来る。

   (3)しまりばめ
      穴の最大許容寸法より、軸の最小許容寸法が大きい。
      よって、油圧ジャッキなどで押し込んだり、冷やしばめ
      などを行う。簡単には分解できない。

    がある。
    それぞれ、目的に応じて適せんに選択する。
    一般には穴加工より、軸加工が容易なため、穴基準で
    用いられる事が多い。

  ☆普通公差(一般公差)

   通常図面を書くに当って、全ての寸法に公差を入れる事は
   しない。
   下図(fig3)は長さの普通公差で、(fig4)は角度の普通公差
   である。
   各々精級・中級・粗級・極粗級があり、その級を指定する
   事によって特別に指示が無い限り、その公差で製作される。

    fig3

    fig4

   但し、普通公差には、鋳造品や金属プレスなどに限定した
   規格もあり、業種によって使い分けられている。
   また、工場などに等級を指定してある場合などは、特に
   等級を記入していない図面が多い。
   一般に産業機械の場合は何も指示しなければ中級精度
   で仕上げてある事が多い。
   機械の性格を見極めた上で、発注すべきである。
   
  ☆公差指示 
     公差は精密に加工するためだけに記入する訳ではない。
     加工精度として普通公差での仕上げより粗であっても良い
     場合も同じように許容差を記入する。
     例えば、組立時に容易に勘合が行えるように、穴を大きめに
     するなどの場合や、精密公差域が設計の意図に合致しない
    場合なども、設計者独自の公差を指定すれば良い。
   
 


  2.表面精度

    かつて、20年ほど前までは▽記号で表面精度を表していた。
    当時25Sとか6.3Sとか言う指示が一般的であったが
    現在の最大高さである。
    工場の現場では特別な指示が無い限り、フィルタによる検査を
    随時行っていることはなく、サンプルゲージで対応しているのが
    普通であると思われる。

         しかしながら、表面粗さ測定器の小型のものも販売され、徐々に
    広がりつつあるように見受けられ、今後更に低価格な装置が
    販売されれば、そう遠くない将来に、検査室から加工現場へと
    普及は加速度的に早まると思われる。    
    
      fig5
 
         fig5は20年前のものである。しかしながら、北海道の工場の
    一部にはまだ根強く残っている。

   ☆表面あらさと表面うねり
 
     fig6

   チェックする面に直角に切断したときの切り口に現れる輪郭を
   断面曲線と言う。
   断面曲線から所定のカットオフ値(位相補償形高域フィルタの
   利得が50%になる周波数に対応する波長)λcよりも長い波長
   の成分をフィルタで除去した曲線を粗さ曲線と言う。
     ※電気的に増幅した曲線である。

  ☆表面粗さの定義
 
   表面粗さや表面うねりは表面形状を定める量であるが、これらの
   本質的な定義はされていない。
   1994年に表面粗さのJIS規格の見直しが行われ、全ての粗さ
   パラメータがフィルタ処理後の粗さ曲線に基づいて算出されるように
   改善された。

   JISの粗さ形状パラメータはfig10に上げられるが、代表的なものは
   次の3種である。(各解説はfig10に譲る)
   
   (1)算術平均粗さ Ra

    fig7-1
    一つの傷が測定値に及ぼす影響が非常にちいさくなり
    安定した結果が得られる。

   fig7-2

   (2)最大高さ Ry

     fig8-1
    1箇所でも高い山や深い谷があると、大きな値になってしまい
    測定値のバラツキが大きくなる。

   fig8-2

   (3)十点平均粗さ Rz

     fig9-1

   fig9-2
 

    であるが、この内最も優先されるのは算術平均粗さ:Raである。
    よって、特別な指示が無い限り、粗さ記号に付加される数値は
    Ra と考えてよい。

 
                                                   ↑Ra表記
    

      fig10
 
 
    ☆パラメータの指針
    
    上にあげたパラメータ  算術平均粗さ      :Ra
                   最大高さ         :Ry
                   十点平均粗さ      :Rz
                   凹凸の平均間隔    :Sm
                   局部山頂の平均間隔 :S
                   負荷長さ率       :tp

     の他に   二乗平均粗さ    :RMS
            算術平均傾斜    :Δa
            二乗平均傾斜    :Δq
            振幅分曲線      :ADC
            負荷曲線       :BAC
            ピークカウント     :Pc
            平均凹凸高さ     :Rc
            ハイスポットカウント :HSC
            初期磨耗高さ     :Rpk
            負荷長さ率      :Mr1
            初期磨耗面積    :A1
            油溜り深さ      :Rvk
            負荷長さ率2     :Mr2
            油溜り面積      :A2
            最大谷深さ      :Rv
            最大谷深さ      :Rvi
            平均谷深さ      :Rvm
            最大山高さ      :Rp
            最大山高さ      :Rpi
            平均山高さ      :Rpm
 
     などが上げられ、おのおの以下のような関係で使用される。
 
機密度 接触面間の粗さ バルブ・コック・シリンダ  Ra Rp Sm Rpk
摩擦力 クラッチ・ノックピン  Δa Δq Rz Ry Rp
摩擦 摺動の削れ 軸・軸受・ピストンリング  Rp tp Rpk Rsk BAC
焼付き・潤滑性 潤滑油を谷に貯める シリンダブロックボアの 
 プラトーホーニング面
 Rv tp Rvk Hp Mr2 BAC
密着性 リンギング ブロックゲージ  平面度 Ry Rmax
接着性 塗装・メッキ 
剥れにくさ
プリント基板・接着面塗装下地 
メッキ下地
 Rz Δa Δq 
剥がしやすさ 型と成形品 金型  Rz Ry Δa Δq
外観・光沢 メッキ面・虹面仕上げ・シボ・鏡面  Δq Rq Ra 
外観・光沢 塗装面の輝き 自動車用冷間圧延鋼板  Ra Pc 
光学的性能 光束の屈折 鏡・レンズ・プリズム  Δq Rq Ra
耐食性・絶縁性 毛細管現象 耐候部品・電気部品  Ra Δa Δq Rv Mr2
疲れ破壊強さ 切欠の疲労破壊 クランクシャフト  Rmax Rv Rvk
電磁気特性 傷・粗さで 
表皮効果阻害
導波管・磁気コア  Ra Ry Rz
接触面の熱 
電気抵抗
実質接触面積の 
変化
リレー・スイッチ・コネクタ 
・ヒートシンク
 tp Ra HSC 
接合面剛性 たわみ ボルト締め部  平行度 tp Rz Rp Rpk
寸法測定精度 測定誤差 マイクロメータ・ノギス  平行度 Ry Rp Rpk
肌触り 手触り ローレット・梨地面  Ry Δa Δq Pc
印刷品位 紙のキメ 印刷用紙  Ra Rv Rvk Pc
騒音・振動 高速回転振動 歯車・転がり軸受・ガイド  Ry Rmax
   
      測定面の性状及び用途、性能などにより、数多くの評価パラメータが
   統一できないまま使用されている現状が覗える。
   
   (個人的感想)
     表面粗さについて改めて調べてみて、どの資料も学問的パラメータに
     関しては述べているが、実際現場での選定方法について詳細に述べて
     いるものが見つからないのである・・・。
     ずっと思ってた疑問であり、実際に現場で聞いてみても、私の周囲で
     明確な答えは返って来ないのである。
     「25Zだから1発だね」と言う具合である。ましてや、彼等は十点平均で
     測定しているのではない。
     学問の表面粗さのパラメータの乱雑さと現場での現状がまるっきり
     一致を見ないのは何故なんだろうか?
     どの評価パラメータを使用するべきかの指針が定まらない限り、これは
     学問としても中途半端過ぎると言う感想を持った。
     この部分に関して、暫く宿題としておくので、後日改めて記載する。

       JISではISO規格に合わせて算術平均Raを推薦している。
   図面の上で指示する場合は出来るだけRaに統一するのが良い。   
  

      
      
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