ねじ
      
  
  ネジと言うと締結用ねじが一般的に思い当たるが、螺旋を描いて回転し、直線
 運動を利用する、又は逆の使用方法もネジと呼ぶならば、その種類は多い。
 
 例えばテンションを利用するならばターンバックルからつり橋のロープなど、
 ネジ直径が1mにも及ぶものもある。
 車のサスペンションを縮める工具も締結用ではないし、マイクロメータなどは
 測定器であるし、チェンジナットのように直線運動を回転に、回転運動を直進
 に変換させるものもある。
 ラックアンドピニオンのように全く別軸に仕事をするもの・・などなど、
  基本は螺旋なのだが用途は無限とさえ思えるほどである。

  使用目的を列記してみると、主なものとして

   1).ボルト・ナットなど締結用のもの。
   2).マイクロメータなど回転を軸方向変位に変換したもの。
   3).旋盤の送りねじのように、力・運動の伝達に使用するもの。
   4).ウォーム&ホイールのように並行も交わりもしない軸へ、
      回転を伝達するもの。
   5).農産物の選別用スクリューのようにねじ機能を利用して
      形状のみを使用するもの。
   6).ネジ形スクリューのように媒体から推進力を得るもの。
   7).流体ポンプなどのように、媒体に推進力を与えるもの。
   8)モーノポンプなどのように媒体の正確な計量に使用するもの。

   など、ねじ機能の使い方は思っている以上に広範囲に利用されて
   いるのである。

 

上の絵は六角ボルトの右ねじの模式図である。

右ねじとは「右回転で前に進む」ねじである。
一般に指定が無ければ右ねじが標準なので、わざわざ「右ねじ」と指定する
必要はない。 
 
 

 「ねじ」は上図のように、円筒に巻きつけた巻線(herix)である。
 これを平面に展開すると、1回転して次の山までの距離 P をピッチと呼ぶ。
 1回転なので円筒周長 πd 2 でP進んだ時の角度 α をリード角と呼ぶ。
 ここで d 2 =基準円筒直径=ねじの有効径(mm)とすると

    tanα=P/πd 2
 
  の関係がある。



 ☆ネジの歴史
 
 史実は不確かでおおまかなものしかない。

 ねじの形態(原理)を使用した最初のものは紀元前250年頃のアルキメデスの
 揚水ポンプであると殆どの解説に書かれています。

 舟艇や船底に溜まった水の汲み上げポンプとして用いられたようです。
 現在で言えばスクリューコンベアです。
 16世紀から17世紀には中国に伝わり「龍尾車」と名づけられ、17世紀の
 半ばには日本の佐渡金山でも排水用に用いられ「竜樋(たつとい)」と
 呼ばれたそうです。

 別の用途としては紀元前100年頃に、オリーブの実をつぶすネジプレスが
 作られ、更に葡萄を絞るにも大いに活用されたようです。
 西暦1450年頃、この原理を使ってグーテンベルクが印刷機を作り活字文明
 がはじまりました。
 新聞を「The Press」と言うのは、このプレス装置が語源なのだそうです。

 以上は原理を利用したと言うもので、締結(ていけつ)用のねじを発明したのは
 レオナルド・ダ・ヴィンチで1500年前後と言われます。
 彼の残したスケッチに、タップ及びダイスによるねじ加工の原理があります。
 これ以降、急速に機械の歴史は進歩し、1549年に来日したフランシスコ・ザビエル
 が1551年に大内義隆に贈った機械時計に使用されているネジが、我国に伝わった
 最初の締結ねじであるとされています。

 1543年(天文12年)8月25日、種子島にポルトガル人が漂着しました。
 この時2丁の鉄砲を2000両で譲ってもらい1丁は足利将軍に献上されました。

 翌年の1544年には刀鍛冶の八板金兵衛が銃身の複製に成功しています。
 しかし、火薬爆発で強い衝撃を受ける尾栓(筒底)の止め方が判らず、当初は
 「張り塞ぎ」と言って、単に張りつけていたそうです。

 実は本物はネジで止めていたのですが、原理も何も分からない。
 更に1年が過ぎた1545年になって、来航したポルトガル技術者から教えてもらい
 苦労に苦労を重ね、雄ネジを雄型として、火造り(熱間鍛造法)で尾栓にめねじ
 を切ったのが、日本のネジ製造の起源として伝えられています。

 その後鉄砲は泉州堺・紀州根来・滋賀国友村 などで尾栓ねじの製造が改良、
 開発されて全国に普及して行ったそうです。

 余談ですが、日本で最初に自転車を作ったのも鉄砲鍛冶屋だそうです。
 横浜の異人さんが、修理に持ち込んだ先が「宮田鉄砲鍛冶屋」だったそうです。
 そうです「宮田自転車」のことです。
 



  ☆ねじ規格の歴史
 
1841年  
ウィットウォースねじ
1800年代、英国のワイアット兄弟のねじ製造用旋盤を経て全鉄鋼 
製のねじ切り旋盤を開発したヘンリー・モーズレーの弟子の 
サー・ジョセフ・ウィットウォースと言う研究者が、互換性のあるネジ 
を検討し、ウィットウォースねじ形式を1841年に発表し(これは山の 
角度55度のウィットねじ)、英国の国家規格BSに発展し世界中に 
普及しました。
1864年  
アメリカねじ 
ねじの標準化は、互換性生産方式に基づく大量生産システムの 
米国でも推進されウィリアム・セラーズがウィットねじに改良を加え、 
山の角度を60度としたインチ系ねじが、セラーズねじとして広まり、 
1868年に米国の政府関係事業に全面的に採用されました。 
(アメリカねじとも言う)
1894年  
メートルねじ 
ねじ山60度のメートル系ねじ「SF規格」が仏国で制定された。 
その後約4年たって、ドイツ・フランス・スイスの各代表がチューリッヒ 
に集まり、SIねじ(System of International Meetric Screw Thread) 
を定めた。 
これが人為的に作られた最初の国際ねじだといえる。 
1926年 
〜1945年 
ユニファイねじ
イギリスのウイットウォースネジ、アメリカのアメリカねじ、フランスの 
メートルネジは、それぞれ別個の形で発達していった。 
しかし、第一次大戦のとき、連合軍側は、3つのねじ規格があること 
から、ねじの互換性のことで、軍事作戦上にがい経験をした。 
これが原因で、第二次大戦勃発直後、アメリカ・イギリス・カナダの 
三国が、軍用品に用いるねじとして、オッタワで3国間のネジ協定 
が行われた。これがユニファイねじである。
 1952年 
 ISOねじ
1947年に設立したISO(国際標準化機構) 
(International Organization for Standardization)は発足当時、 
その参加国は26ヵ国であったが、今日では世界の51ヵ国が参加し 
わが国でも、1952年に加入した。 
この専門委員会は、ISO/TC1(ねじ基本)、ISO/TC2(ボルト、ナット 
および付属品)、ISO/TC3、(寸法公差およびハメアイ)をはじめ 
ISO/TC104(輸送用コンテナ)など、各産業分野におよんでおり、 
随時開催される。 
1957年ISAとユニファイねじを採用しました。 
 1965年 
JISに採用 
日本では1949年JIS制定により規格を制定していますが、 
1965年にJIS(日本工業規格)が一斉に大改正され、一般ネジは 
ISOメートルねじ、航空機はユニファイねじを使うと決められました。
 
 

 ☆ねじの種類

 下表は2004年版「JISハンドブック 機械要素」に掲載されているものである。
 
規格ねじ
 メートル並目ねじ M  例: M8 、M16   JIS B 0205
 メートル細目ねじ M  例: M8×1 (M8でピッチ1.0)  JIS B 0207
 ミニチュアねじ S  例: S0.5  JIS B 0201
 メートル台形ねじ Tr  例: Tr10×2  JIS B 0216
 管用テーパねじ テーパおねじ R  例: R3/4  JIS B 0203
 管用テーパねじ テーパめねじ Rc  例: Rc3/4  JIS B 0203
 管用テーパねじ 平行めねじ Rp  例: Rp3/4  JIS B 0203
 管用平行ねじ G  例: G1/2  JIS B 0202
 ユニファイ並目ねじ UNC  例: 3/8-16UNC  JIS B 0206
 ユニファイ細目ねじ UNF  例: No.8-36UNF  JIS B 0208
 
  これらが一般に言う「ねじ」であり、我々機械設計屋も殆ど全て、これらだけを
 使用しているが、しかしながら業界が違うと、その業界独特の「特殊ねじ」を
 使用する分野もある。

 その一部を下表に紹介する。
 
特殊ねじ
 電線管ねじ 薄鋼電線管ねじ CTC  例: CTC25  JIS C 8305
 電線管ねじ 厚鋼電線管ねじ CTG  例: CTG28  JIS C 8305
 自転車ねじ 一般用 BC  例: BC3/4、 BC1.29  JIS B 0225
 自転車ねじ スポーク用 BC  例: BC3.2  JIS B 0225
 ミシン溶ねじ SM  例: SM1/2山20  JIS B 0226
 電球ねじ E  例: E10  JIS C 7709
 自動車用タイヤバルブねじ V  例: 10V1  JIS D 4207
 自転車用タイヤバルブねじ CTV  例: CTV5山24  JIS D 9422
  他にも、エンジニアリングプラスチック用に開発されたねじや、アルミ板などに
 使用されるヘリサートやタップタイトなどもあり、更に、締結用のみならず
 多用途も含んでしまうと、大リードねじ、多条ねじやボールねじなどなど、
 機械設計周りだけでも、かなりな数にのぼる。
 そして、それぞれが独自の規格を持って使用されているのである。

 これにネジの形態(頭の形状や工具用スリットや穴加工)の区分、及び
 用途区分、材質区分などを加えると、そのデータだけでも膨大となり
 とてもこんなページに掲載できる量ではない。

 ねじ専門業者のカタログでさえも、それらを全て網羅している訳でもなく
 中には、規格さえ怪しいものも含まれる事になる。

 例えば建設機械の表面から、無骨なねじやボルトの頭が消えた。
 しかし、それはデザインの問題であり、ねじやボルトを使っていない
 のではない。
 ねじの造形が「古っぽい」とか「安っぽい」とか、時代の感性に
 よるものであると考えられる。

 また、接着技術が発達して、機械ボディなどに使用されるなどの
 革新が見られはするものの、脱着が容易なネジの特性に見合った
 ものが開発された話は聞かない。
 ファスナーなども、かなりな進歩をして来てはいるが、我々
 機械設計屋から見て、積極的に設計に用いようと言う段階に
 まで来たとは思えない。

 更に、ねじ・ボルトと言うメカニカルな強度を、接着が全て補えるか
 については疑問である。
 建築関連で良く行われる溶接ですら、万が一に備えてボルト装着後
 溶接する手法を取る場合がある。
 つまり、将来的に溶接部に問題が起きても、ボルト強度が補うと
 言う安全予防といったものである。

 一時期の規格の過渡期に比べて、JISに規格されるねじの数も随分
 減少はした。
 しかしながら、エンジニアリングとしてのねじは、益々用途が増えて
 いるのだと思われる。
 歯車にナノ技術が投入されようかと言う時代である。
 ねじについても、まだまだ発展する分野が出現するであろう事は
 予想するに難くない。
 

  途中 休憩

 
      
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