2004年9月6日記 掲示板から抜粋

当時パソの調子がいまいちで、各文章は最低限で区切られている。
更にHPの更新も出来ない状態であったため詳細は語らずに来た。
概略で良いのだと思うが、足りない部分に赤字で補って再掲載する。 ef

世界の頂点

3日間、1日2本 計6回 ゴール計時をやって来た。開いた口が塞がらない。
永久に日本から世界のトップが生まれるのは不可能ではないのか…。
レベルではなく、ラベルがまるっきり違う!
1桁ゼッケンは「見えない!」のである。
赤いリボン:赤と青のリボン:白のリボン…。No.11以降は車が確認できる。
無論日本の選手はもっと楽。と言っても、めちゃ速いのではある。
速い!と思うのは20台くらいまでだった。
後半は最早静止画像に近い(言い過ぎかな・・:笑)。
実際の格差には驚くべきものがある。初めてインターラリーを経験
した時、ポッサム・ボーンやカラムジット・シンの激しい走りに感動
したものである。「流石、世界の一流は違う!」とね。
しかし、それは全日本のトップと左程隔たっているとは感じなかった。
今回の驚きは「ボーンやカラムジットでは話にならない訳だ」と
言う完全な差別感:ギャップである。
彼らがAPRCで戦っていると言うWRCとの歴然とした差がそこに
存在するのである。カルチャー・ショックは計り知れない。
日本人がそこで走っていない理由が、体感で分った。
WRCはまるで別次元。

1桁ゼッケンは速度もそうだが、石の飛ぶ方向がまるっきり違う。
彼等の石は横に飛ばないのだ!
車と平行に近い形で進行方向に突き刺さって来る!
ランク下のNo.11以降20号位までは少し広がり、それ以降徐々に横に
飛んで来る!最も悲惨な石飛ばしはNo.50以降!真横にでかい石を飛ばす
から何度も身体にヒットした!
直線で石を横に飛ばす奴は遅い!今回初めて知った傾向であった。
計時が二人で、一人はゴール看板の横に張り付いて車番を確認する。
あろう事かWRCの番号は小さく後ろ横の窓に貼ってある。
これをほぼ満開状態で、形も見えない速度で通過する一瞬に目視
で確認するのである。
次に現れるのが5号車と分っていても「5」が読み取れるかどうかは
殆ど「運がよければ」の世界であった。
車番確認はMr.高橋にお願いし、彼に車番確認を一手にやって頂いた。
後半にはかなりなプロになっていたが、それでも一桁ゼッケンは
未確認になってしまう。
「今のはシトロエンなんで、間違いなくサインツです!」
隠れ蓑にしているシルバーのテントの影から怒声が届く。
テントには恐ろしい勢いで小石が突き刺さっている。
その後から何も見えなくなる土ホコリが視界を奪ってしまう。
後半ゼッケンになると2台3台がダンゴで入って来る。
しかし、遅いので確認は楽になる。が、今度は石が真横に
飛んで来るので、ゴール看板から数メートル奥まった場所にいる
ワシ等計時担当が危険な目に遭うことになる。
何度も石が体を直撃した。その時に思わず叫んでいた。
「ええーい、このへたくそが!」

1日目、初めて自分達で計測装置周りの組立てをやったのだが、ふと油断
してメインのICUをちょこっと落下させてしまった。
で、OCUと繋ぐ端末を壊してしまった。と言うトラブルから私のWRCは始まった。
お蔭でゴールフィニッシュ担当のMr.福田は200mほど離れたワシ等のテント
とゴールのテントを何往復もしなくてはいけなかった。
一年経った今でも当時を振り返り批難ゴーゴー雨あられである:笑。
フィンランド人のISCがやって来てちょちょいと直してくれ、一安心、
以降3日目の1本目までは何事も無く事は進んだ。
休憩時間に私服の外人軍団がでやってきた。
私服だし、何言ってるのか良く分らないし・・・デリカで眠っていた
ワシの班で唯一英語が出来るMiss.中山を起こし通訳してもらう。
ようは看板車だった。ゴール手前に大きなスポンサー看板を
設置して行った。
そうしたら、SSが始まると空撮ヘリがやって来た!
VTRでワシんとこのSSゴールシーンがあったが、その為の看板
設置であった。つまり、ゴールに看板を設置すると言う事は
空撮が入ると言う事らしい。最も、各選手のインナー映像にも
写り込む訳で、専属の看板班なのだと聞いた。
機器のメンテナンスをやってくれたISCもWRCの人間ではなく
専門に受けてる会社の人間なんだそうである。
因みに、コース内に入れるプレスの数は10人(だった記憶)で、
他の人間は一切入れない。他の週刊誌なんかは彼等から
買うしかないんだそうである。
世界中でたった10枚のプレスパスしか発行しないらしい。
日本は1枚だけ。本当にそうなのか確認はしていない。
とにかく、彼等は道のすぐそばでカメラを構える。
真っ青な顔でMr.高橋が「あのカメラマン、馬鹿かーーー!
危ねえべや!注意しなくて良いのか。」と怒鳴った。
もう兆速の爆音が聞こえている。
「ほっとけ!」
ダバババー、ズドドドドーとラリーカーが通過する。
「あいつ、キチガイだぜー!逃げもしねえ!!」
ドライバーが一流なら、それを世界に伝える人間も常人ではなかった!
ワシ等がテントに隠れて避ける石の攻撃を、一番近くでモロに
浴びながら感動の瞬間を伝えているのであった。
空撮ヘリも異常な低さで道成りに木立のスレスレをヒラリヒラリ
飛んで行くのである。
VTRの静止画像では1コマだけテントの中のワシが確認できる
そうである。何もかもがプロ集団であった。

三日目新得のSS。
私の所はノープロブレムなので、ISCは他の山に応援に行ってしまった。
と、私達最後のSS26が始まる1時間前、OCU(計測装置)の数字が消えた!

発電機は動いているのに、計時のLEDが点かないのだ。
直に車のエンジンを回してバッテリーに接続。
LEDは蘇ったが、ELOR 3 NO RADIO が点滅…。
直にISCを依頼するが、他の山にいて直には来れないと言う。
試しにセンサーのSWを入れて、横切らせてみると、しっかり計測している!
タイム計時に支障は無いが、これではロンドンにデータが届かないと思われた。
000、00、0 と来てSS26はエラーの点滅のまま競技は進行した。
これには本当に参った。電源は1番が発電機、こいつは3時間
で燃料がカラになるから、定期的に燃料補給が必要。
もし、こいつが問題を起こしても補助バッテリー(充電済み)に
切替えられる。それでも駄目な場合は、車のバッテリーから取ると言う
3重構造になっている。
おそらく、補助のバッテリーに発電機から充電されないトラブルと思われ
車から電源を取る事でLEDは蘇ったのに・・・訳のわからないエラー
表示である。もうすぐ000が到着しようかと言う時間帯であった。
ホイヤーの手動計測しか生きていないなら、事は重大であり
ゴールフィニッシュには無線連絡を入れる事になる。
(国内競技になっちまうでやーー)
Mr.高橋がセンサーを横切ると、計測している事が判明。
エラー表示ではあるが、ゴールにもワシが押した信号が届いている。
行ける!少なくともここで間違い無い計測だけは出来る。安堵した。
半分位ラリーカーが通過した頃にISCが通過するラリーカーから
逃げながらやって来た。
計時に支障の無い事を説明する。ISCが親指を立てて「good」。

原因はバックアップバッテリーがほぼ死んでいたのと、GPSアンテナ側
(簡易パラボラ)の故障らしい。
残念ながら、このシステムはまだ完璧ではないらしく、私の所はほとんど
ノントラブルだったが、他の(我々のスタートを含む)ところでは結構続出して
いたらしい。
計測システムのソフトは流石と思うが、現実にハード面で完璧には行かない
ようである。
タワーやタバードなども簡単にと考えてはあるようだが、もっと簡単に作業で
きるのではないかという部分が幾つも見られた。
世界中のラリーを持ち回りする機材なのだろうが、関心できない部分は多い。
二度の講習会とDVDでの映像で機器の設定や使用方法は理解できる。
しかし、何が起るか分らない「トラブル対処」には方策が無い。
現場で体験してみなければ何も分らないのである。
システムとして完成しているように見えるが、信用しているだけでは
対処不能に陥るだけである。
何があっても、最後には腹時計を使ってでも「計測しちゃる!」と言う
意気込みは持っているが、実際に計測器をもがれたら、なす術を
失ってしまうのである。
例えば、ホイヤーのバックアップはまだしも、手押しで世界レベルを
計測して良いものかどうか・・・。最悪やるしか無いのだがね。
ワシは機械設計屋である。その目から見て、もっと簡便になるのになあ
と思える箇所が幾つかある。
但し、世界中のラリー会場を持ちまわる機材であるから考え方も
違うのかも知れない。考えられている事はいるが・・・もうひとつなのだ。
組立・撤去の繰り返しである。かなり疲れる。

まだ、リザルトすら見てないし、1度も映像やその他、何も情報がないので
どんな感じで世間の目に映ったのか全く知らないが、ともあれ
私のWRCは終わった。
最後の最後に、一生懸命このラリーを支えた人物に、心無いバカ会長が
頭ごなしの命令をくれ、彼は怒りを爆発させた。
彼の爆発は私や仲間の爆発でもあった。
何もやらない人間が、懸命に現場でやって来た者にぶしつけな態度と命令。
「ざけんじゃねえぞ!バカヤロー」
同じ気持ちである。
推測であるが、現場を離れて見物しに行ってたようである。
やる事をやらない人間の言う事など、聞く訳もなかろう。
現場の補助に据えられた人間が、補助を放棄しておきながら
一丁前の口を利く。
彼が爆発する前に、既にワシは爆発していて、彼等と口も
聞かずにいたのである。
ワシは札幌に戻ってから元会長に対してクビにする事を迫った。
向こうは向こうの事情を持っている。
懸命になっている人間を引っ張る立場の者が、仕事を放棄して
良い訳がなかろう。ふざけている。
今年は最後まで山長が指示するようお願いしてある。
去年の二の舞は御免こうむる。
一緒に汗水流した人間としか話はしたくないのだ。
ワシは偏屈なガンコジジである。