第十三話 名も無い手紙
ウロ覚えではあるが、そのサイトの名前を検索して、面白半分に
登録完了。
掲示板に書き込むのも面倒なので放っておいた。
ささいな悪戯心だったから、忙しさにかまけてすっかり忘れていた。
1ヶ月も過ぎた頃、会社の残業を終えて帰宅したら差出人の書いて
いない封書が届いていた。
んだろ?と封を切ってみたら、押しレース模様が周りに飾られた
女の子チックな便箋が出て来た。
「 陵へ サキ」
・・・・?サキ?誰だ?
「どうして黙って居なくなったの?私のせいなの?それとも
あの娘の為?」
・ ・・・・はあ?・・・何の事だ?
あわてて封筒の宛先を見る。
墨田区立花4丁目・・・・柿田荘203号室 澳田 陵
・・・間違いない、このアパートのこの部屋、ボクの名前である。
でも、まるっきり身に覚えは無い!どうなってんだ?
背筋に悪寒が走った。
考えられるのは、誰かがボクの住所と名前を使って、このサキ
と言う女性とお付き合いをしていたようである。
見てはいけない物を見ている気がしたが続きを読んでみた。
「貴方が15人から私を選んでくれた時はすごく嬉しかったの。
まして一緒に暮らした1週間は夢ごこちだった・・・。
でも、まさか騙されているとは思わなかった。
ウソならウソで構わなかったけど、それなら他の掲示板なんかで
話して欲しくなかった。
私は貴方の何だった?おもちゃ?ピエロ?それとも・・・」
・・・読むに耐えない・・・便箋5枚に渡って書かれていたのは
恨みの言葉。
ざっと想像で要約すると、ボクが登録した出会い系サイトで15人の
女の子からサキちゃんを選んで実際に付き合い始めたらしい。
ところが、サキちゃんとの一部始終を面白可笑しく他のサイトに
書き込みをして笑い者にしながら、別の女性とも付き合っていたらしい。
更にサキちゃんの印鑑を使ってサラリーローンで多額の借金・・酷い話だ。
「多分、これはウソよね?やったのは陵じゃあないよね?」
・・・ええ、私じゃあ、ありませんってば・・しかし、こんだけ散々な目に
逢っていても尚信じてるん?ボクの名を騙った人物を?
・・どんな男なんかね?凄腕のジゴロかい??
最後にこう書かれていた。
「あなた無しではもういられないの。
だから、私のところに帰って来たら全部許してあげる。約束する。
でも、もしも7月6日までに私の前に現れなかった時には、
それ相応の報いを受けて貰うわ。覚悟してね・・・」
・・・・7月6日?・・・・今日じゃん!
手紙はそこで終わっている。
もう一度あちこち見返したが住所一つ、サキちゃんの苗字すら
書いていない。
消印は埼玉県霞ヶ関郵便局・・・行った事も無いところだ・・・。
焦って登録した出会い系サイトを開こうとしたが、エラー表示!
あちこち検索したがダメ、サイト自体が無くなっているようだ・・・。
どうしよう・・・・。それ相応の報いって何だ?
警察に行こうか?・・・だけどサキちゃんが誰なのかも分からない。
どう説明すりゃあ良いんだ?
そう言えば!思い当る節があった・・10日ほど前、やはり残業
から戻って来てドアを開けた瞬間、微かに女性の香水の香りが
したのである。
その時は疲れのせいだろうと何の気にもせずに済ましたが、
知らない内にこの部屋に来ていたのか?
ここんとこずっと残業続きで日曜日すら昼間部屋にいる事は
なかったんである。
考えれば考えるほど疑心暗鬼に陥るばかり・・・。
・・・ま、明日、警察に行って事情を話した方が良さそうだ。
残業の疲れもあって取り敢えず諦めて寝た。
明け方、けたたましいサイレンと怒号で目が覚めた。
・・・煙!! 誰かが窓の外で騒いでいる。
「火事だーーー!火事だぞーーー!!」
慌てて部屋を飛び出した。外階段を降りて表に出た。
野次馬の中、サイレンを鳴らして消防車が到着したところだった。
火元はボクの部屋の窓の下だった。
幸い発見が早く1階の壁とボクの部屋の外壁が燃えただけで
何とか鎮火したが、放水でボクの部屋は水びたし・・・
悲惨な事になってしまった。
調べではこの火事は放火であると断定。
わざわざダンボール等を持ち込んで火をつけたそうである。
警察に手紙の事情を話したが、その後何の音沙汰も無いし、
未だにこのサキと言う女性が誰なのかも分からない。
次の日には別のアパートに引越したので、その後手紙が来る
事は無かった。
・・わざと住所変更手続きはしなかったしね・・・恐くって。
先日、燃えたアパートの近所のオバサンから火事現場を写した
デジカメ映像を見せて貰った。
しぶい顔で眺めている野次馬の影にはなっているが、明らかに
笑っているロングヘアーの20代と思われる女性の顔が半分だけ
写っている。
もしかして、この子がサキちゃん?
でも、ボクの顔を見たら人違いだと分かってくれたはずだよな・・・。
・・今度またいつか差出人の名前が無い手紙が来たら・・・・・
何処に行くにも何かしら隠れながら歩くようになったし、
アパートに入るのに必ず周囲を確認するようになった。
被害妄想かも知れ無いが、ここんとこ、疑心暗鬼の
ドキドキの毎日を過ごしている。
「朝の作戦はなんとか成功したが、敵は強く油断ならない。
ゼロゼロ・スリー。君は敵の偵察をして逐次無線で連絡を入れろ。
ゼロゼロ・ツーとボクはトラップを張る。」
「ラジャー!」
すぐに003は敵の補給基地に向かった。
モンスター・エムはまだ補給基地にいる時間だ。
002とボクは基地の裏からトラップの梯子を運び出し、通路の脇の
草の中に置き、上を草で覆った。
梯子の一端と小さな木をロープで結び、他の一端のロープを
通路の向こうまで伸ばした。
おとりの002を追いかけてモンスター・エムがここに差し掛かれば、
梯子でモンスターの足を掬う作戦である。
朝はビーム・ライフルでモンスターがひるんだ隙をついて例の
毒薬を奪い去り消去する事ができた。
その後の攻撃を逃れ、少ない携行食糧だけを持ち基地に
こもっていたのである。
捉まれば、間違いなくあの毒薬を口に放り込まれ悲惨な結末が
待っている。
しかし、今また敵は補給基地から毒薬を補給すると言う情報が入り、
ボクたちは再び立ち上がったのだった。
003から連絡が入る。
「モンスター・エムが今補給基地を出ました。」
「ラジャー、そのまま尾行に移れ!」
敵が動き出した。ここに来るまで10分程だろう。
002とボクは予定通り所定の位置についた。
002は表の通信塔の陰に身を潜め、ボクはトラップのロープを握って
木の陰に隠れた。
数分後003から緊急連絡が入った。
「エマージェンシー、大変です!サーベル・タイガーが現れました!
尾行続行不可能!」
作戦は大きく崩れた・・・。モンスターがここを通るタイミングが
計れなくなった。
「003!何とかならないのか?」
「あああ、モンスター・ピ―が突如現れました!」
003からの通信は途絶えた。
刻々とモンスター・エムがここに近づいているはずなのだが、
002に合図を送る事が出来ない。
ただ時間だけが過ぎて行く。
「捕まえた!」
と言う声が通信塔の方から聞こえた。
002が捉まってしまった。
「ほんとにもう、世話のかかること!」
002はモンスターの小脇に抱えられ、観念したのかぐったりしている。
もう、こうなればボク一人で戦うしかない!
モンスターが所定の位置に来た!
ボクは一気にロープを引いた!
しかし、モンスターは002を小脇に抱えたまま梯子のトラップを
簡単に飛んで避けたのだ!
「甘い!」
言うが早いかモンスターは木の陰にいたボクの襟をサッと
掴んだのである。
捉まってしまった・・・。
こんなに素早い動きが出来るなんて思ってもいなかった。
敵の巣窟に連れ込まれ、椅子に座らされた。
そこに003もモンスター・ピーに捕獲されて戻って来た。
003の手にはソフトクリームが握られていた・・。
・・ああ、ついに買収に乗ったか・・・このままだと例の毒薬を口に
放り込まれるのを忘れたのか?
時間が過ぎ、目の前に毒薬が乗った皿が運ばれて来た。
002はまだソファーの上でグッタリしている。
モンスターエムの命令でモンスターピーがボクの後ろに来た。
そうしてボクの口を両手でこじ開け、モンスターエムが毒薬を
スプーンに乗せボクの口に放り込んだのである。
ボクは精一杯抵抗したが、モンスター・ピーが無理矢理口を
閉めたのでついに毒薬を飲んでしまった。
「にがーい!」
モンスター・エムが更にスプーンに毒薬を乗せて迫る。
「あなた、翔太も起こしてご飯を食べさせてね。
まったくもう、私がスーパー から帰って来たら電信柱の蔭で
眠ってたのよ。
お昼寝もしないで何してたんだか。
啓太!ほらタンとピーマンたべなさい!
朝ママに水をかけて逃げた罰よ!
洋子ちゃんは何処に行ってたの?」
「うーーんとね、うーーんとね。
ママのお手伝いしようかなって思っていたら三枝さん家の
ボスがいたの。
そんでね、そんでね、恐くてママのところに行けなくなって
泣いてたら、パパに逢ったの。
そんでね、そんでね、ソフトクリーム買ってもらったの。」
収録作品:第一話「宇宙消滅の日」/第二話「奥様は動物がお好き」
/第三話「魔法ワークス」/第四話「ブンブンブン」
/第五話「異世界からの漂流者」
/第六話「スーパーマンの都市」
/第七話「厳選なる抽選」/第八話「未来を生む植物」/第九羽「戦勝国の憂鬱」
/第十話「慈悲のココロ」
/第十一話「完璧!人工頭脳MARIA」 /第十二話「記憶」
/第十三話「名も無い手紙」 /第十四話「Mの恐怖」